第48回日春展から森美樹「無垢」について感じた事2013/06/12 23:27

 第48回日春展の大阪展は一ヶ月前の5月10日~15日に大丸心斎橋店で開かれました。日春展は日展の日本画部が春に開く日本画だけの展覧会です。入選270点、日春会会員出品84点、日春会委員出品50点の中から大阪展にはそれぞれ143点、42点、50点、合計235点が展示されていました。

 展覧会をじっくり見させていただきましたが、高いレベルの日本画が揃っているなあとと感心しました。ざっと見て通り過ぎるのを許してくれない、引き止めて緊張を強いる多数の日本画に出会いました。

 その中でも特に、私の魂を捕まえて離してくれなかった日本画が森美樹さんの「無垢」です。サイズはM60号(130.3×80.3)ではないかと思います。縦長画面に白百合が描かれていますが、ただの花鳥画でないことは容易に気づきます。画面全体が土色に沈んでいます。主題の白百合は画面中央ではなく極端に左寄りに位置しています。バランスの崩れは不安を呼び起こします。白百合の葉からは生気が失われ枯れ急いでいます。

 花開いた白百合3輪はけがれを知らぬ「無垢」な乙女を象徴しています。このことは西欧絵画ではお約束事になっています。幾多の西欧名画、ダヴィンチやグレコの受胎告知に描かれた聖母マリアに受胎を伝える天使には処女性を表す白百合が添えられています。ドイツ象徴主義の画家フランツ・フォン・シュトゥックの作品に、薄衣をまとった若い女性が右手に白百合を掲げ持った構図の絵がありますが題名は「無垢」です。森美樹さんも白百合に処女性を象徴させて描かれたのだと思います。そして題名に「無垢」と付けられたのだと私は思っています。

 白百合にはよからぬ悪を象徴するツル性植物が絡まりながら這い登ってきています。速い速度でツルは上ってきて白百合を絞め殺してしまうでしょう。
 この日本画の中にはどこまでも緻密で神経の行き届いた描線、くすんだ土色系統の微妙な色使いとその中で唯一の白色、バランスを崩して不安を底流に流す構図、これらが一体となって類まれな秀作「無垢」に仕上がっています。二本の白百合が全体としてKという文字に見える。暗号だろうか。これはさすがに穿ち過ぎた見方であろう。
 白百合に裏の象徴を読み取らなくても十二分に鑑賞に堪えるところがこの絵のすごいところだと思っている。可能であればぜひ手元に置いていつも見ていたい日本画である。
森美樹さんの日本画「無垢」
 なお、この作品は日春展で奨励賞を授けられている。
 展覧会を見てから時間が一ヶ月も過ぎてしまったが、頭の中で考えを熟成させようと反芻しながら時間が過ぎてしまった。

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